明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~


 傷口からは鮮血が噴き出し、男は地面に転がりのたうち回った。

「た、助けてくれ……死にたく、ない……」

 他人の命を軽んじた者が、自分の命だけは惜しがる。
 将吾は冷たい視線で男を見下ろした。

「……いま、憲兵が来る。観念しろ。女に刃を向けるような下衆に、神が味方してくれると思うな。せいぜい祈っておけ」

 将吾は落ちた匕首を遠くへ蹴り飛ばし、そして、玲子を、そっと抱き寄せた。

「お前のような外道が触れていい人じゃない。命があるだけ、感謝しろ」

 玲子の耳元で将吾の声が聞こえる。

(まさか……。将吾様が、助けてくださるなんて。家から遠く離れた、こんな裏路地で……。)

 玲子は、将吾の広い胸に抱かれたまま、信じられずにいた。
 けれども、確かにその腕はしっかりと抱き留めてくれている。

「玲子殿……お怪我はないか?」

「……はい……」

 耳元に響く将吾の声が、やさしく心を包む。
 極限まで張り詰めていた気持ちがふっと緩み、玲子の意識は静かに闇に沈んでいった。