明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

一将の怒声に呼応するように、一陣の風が吹き、砂ぼこりが渦を巻いた。
 それはまるで、将吾の進路を塞ぐかのように。

「くっ、なんだこの風は……」

 将吾は思い出す。舞踏会の夜、庭園で玲子と出会ったときにも、不思議な風が吹いたことを。

「……もしかして、おじい様か? 行くなとでも?」

 根拠はない。だが、将吾はふとした直感で左手にある細い路地へと足を踏み入れた。
 塀に囲まれた暗い小道。空気が重い。
 次第に目が慣れるにつれ、建物の輪郭がぼんやりと浮かび上がってくる。
 神経を研ぎすまし、気配を探る。今は自分の感を信じるだけだ。
 将吾は自然と軍刀に手を添え、音を立てぬよう注意深く歩を進めた。
 暫く進んだ所で、低い男の声が風に乗って届いてくる。

「ほら、歩け。声を立てるなよ。わかっているよな」

 ふたつの影が、闇の中をのろのろと動く。

(なんだ⁉様子がおかしい……)

 将吾はとっさに物陰に身を潜め、その様子を窺った。

『命の恩人が危険にさらされておるぞ。早う助けぬか!』

 一将の焦りの声が響く。

 もちろん、将吾には届かない。