明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~



 衝動的に家出まがいの行動をした自分を、軽率だったと後悔しつつも、今さらどうしようもない。
 とにかく無事に家に帰ることだけを考え、玲子は足を速めた。
 だが、通りの雰囲気も昼とはまるで違う。

 既にどこかで酒を飲んでいたのか、酔っぱらいの男ふたりが、向かいからフラフラと歩いている。
 玲子の姿を見つけるなり、大声を上げた。

「おっ、キレイなお姉ちゃん! このあと一杯付き合ってよ〜!」

「そうそう、ちょっとだけでいいからさ〜!」

 このままでは絡まれる。そう直感した玲子は、焦りながら辺りを見回した。
 右手の路地には、さっきと同じく《《悪しきモノ》》の気配。
 ならば左だ。迷わず左手の路地へ駆け込む。
 そこは表通りよりもずっと狭く、薄暗かったが、酔っ払いに絡まれるよりはましだ。
 玲子は振り返らず、小走りでその道を進む。

「おーい、逃げんなよ〜!」

「あはは、フラれてやんの〜!」

 背後から聞こえる声を振り切るように、玲子は路地を抜けようと足を速めた。
 しかし、ふいに、前方に黒い霧が立ちこめる。