明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 尚文様は気さくで穏やかで、話しやすい人。
 将吾様は厳しいけれど、ふとした瞬間に優しさがにじむ。
 そして一将様……幽霊なのに、誰よりも人間らしくて、あたたかい。

 普段なら決して交わるはずのない人たちとの時間。
 気恥ずかしさと嬉しさが、心の中にじんわりと残っていた。

 藤堂家のような格式の高い家とは、もう二度と関わることはないかもしれない。
 もし会うことがあっても、きっと挨拶を交わすだけの間柄なのだろう。

 そんなことを思いながら畳を掃いていると、母屋からお手伝いの声が掛かった。

「お嬢様、旦那様がお呼びです」

 玲子は思わず、大きなため息をつく。
 タスキを外し、袂を整えながら、ぽつりと呟いた。

「……きっと、昨夜のことがお父様の耳に入ったのね」

 重たい足取りで渡り廊下を進み、母屋の玄関をくぐる。
 父と顔を合わせることを思うだけで、指先がひどく冷たくなっていく。

 部屋の前に着いた玲子は、磨き上げられた床に膝をつき、静かに声を発した。

「おはようございます。玲子でございます」