明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

そして、一将の目が、尚文へと移った。その瞬間、尚文はほんの一瞬だけ驚いたような顔をした。

『おお、ようやく見えたか、尚文。お前は最後まで、家の調和を保った……よう、やってくれた』

「……お祖父様」

 尚文は静かに立ち尽くしながら、その姿に、わずかに目を潤ませていた。

『お前には、もっと自由な道を歩んでほしいと思っておった。これからは、己のために生きよ』

 尚文は深く頷いた。

「はい。……ありがとうございます」

 一将は三人を順に見渡し、にこりと笑った。

『さて、……もう、行こうか』

 その瞬間、庭の椿の花が、風に誘われるように一枚、空へ舞い上がる。

 その花びらを追うように、一将の姿も、薄紅の光に溶けるように、静かに消えていった。

 誰も言葉を発さなかった。ただ、それぞれの胸に、あたたかな何かが残されていた。

 玲子はそっと両手を胸に当てた。

「……一将様、わたくし、前を向いて頑張ります。将吾様と一緒に、藤堂の家を守って行きます」

 傍らの将吾が、その手を静かに包み込む。尚文もまた、穏やかな笑みを浮かべ、空を見上げていた。

 夕空に舞う椿の花は、やがてひとひら、ゆっくりと大地へ降り立つ。

 ──そして、新しい季節が訪れようとしていた。