祝言の儀が無事に終わり、賑やかだった祝宴も、やがて静かな余韻を残して幕を閉じた。
使用人たちが後片付けを進める中、藤堂家の庭には、夕暮れの淡い金色が静かに降りていた。
玲子は、白無垢から薄紅の色打掛に着替え、ひとり中庭の縁側に出ていた。
涼やかな風が髪を揺らし、遠くから聞こえる三味線の余韻が、どこか夢の中の音のようだった。
そのとき、後ろからやわらかな足音が近づいてきた。
「……玲子君」
振り返ると、尚文がいた。いつもの穏やかな笑みを浮かべながら、どこか少し、遠くを見つめているような顔。
「結婚おめでとう。本当に……よかったね」
玲子は目を細め、ゆっくりと頭を下げた。
「……尚文様にも、心から感謝しております。わたくしがこの家に来てから、ずっと……助けてくださいました」
「いや、僕は何もしていないさ。ただ、君が前を向いた、その背中を見ていただけだよ」
尚文の声は、いつもより少し低く、静かだった。そして、ふと微笑みながら続ける。
「これからは、君を守る役目は将吾に任せよう。……きっと、あいつなら大丈夫だ」
玲子の胸に、やわらかな感情が込み上げた。この人は、最初からずっと優しいまなざしで、そっと支えてくれていた。
「……尚文様は、わたくしの最初の味方でした。決して忘れません」
その言葉に、尚文は小さく笑って、ひとつだけ頷いた。そして、そのまま玲子の手にそっと何かを握らせる。


