明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 次に尚文へと向けられたのは、柔らかな紺色の羽織と、優しい市松模様の着物。

「尚文様には、……わたくしにとっては、いつも包んでくださる兄のような存在です」

 尚文は、苦笑交じりに目を細めた。

「兄か。……まあ、それも悪くないな。玲子君がそう思ってくれているなら、それが一番だ」

 その声には、温かさと少しの寂しさが入り混じっていた。

 そして最後に、玲子は小さな包みをそっと机の上に置いた。

「そして、こちらは……一将様へ。お供えとして、約束どおりお仕立てしました」

 包みの中には、落ち着いた深緑の霰模様に、控えめな藤の花を添えた羽織が収められていた。

 「これを、お仏壇にお供えさせていただきます。……きっと、気に入ってくださると信じています」

 玲子は、そっと最後の包み。一将の着物を仏間に供えた。

 静かな室内に、ふっと空気が揺れる。

 気がつけば、彼女のすぐ後ろに、一将の霊が立っていた。
 いつものように袴姿で、穏やかな笑みを浮かべている。

『……まさか、拙者にまで仕立ててくれるとはのう。粋な娘じゃ』

 玲子は振り返らずとも、その存在をはっきりと感じ取っていた。
 小さく微笑み、胸の前で手を合わせる。

「お約束でしたから。一将様が、わたしをこの家に迎えてくださったから、今日のわたしがあります」

『ふむ……こうして仏前に供えられてみると、なんだか本当にこの世を去った気がしてくるのう。……いや、もうとっくに去っておるか』