明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 玲子は、一将様の姿が、みんなに視えている様子に驚き、言葉を失ったまま目を見開く。
 そこに立つ一将の姿は、ただ穏やかで、あたたかかった。

 一将は、ゆっくりと志乃の方へ顔を向けた。

『志乃や。迷うことはない。わしが選んだ娘じゃ。家の未来は、血筋ではなく、心で決まるのだ』

 その声は、たしかに全員の耳に届いた。

 志乃は、両手を膝に置いたまま、そっと目を伏せた。

「……はい。肝に銘じます、お義父さま」

 それを聞いた一将は、満足そうに頷き、最後に玲子と将吾へ視線を送った。

 玲子は、そっと手を胸元に当て、微笑みながら目を細めた。

 将吾もまた、何かを受け取ったように深く頭を垂れる。

 そして──

 その姿は、春の風に舞う花びらのように、すうっと空気の中へ溶けていった。

 「……見えましたよね、今……」
 
 志乃の言葉にそこに居る皆が頷く。

 それは、ほんのひとときだけ、この世に再び姿を現した藤堂一将の“想い”だった。