明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 やがて、将輝はふっと目を細め、小さくうなずいた。

「……その言葉が、偽りでないことは見ていれば分かる。わたしは口数の少ない人間だが、将吾の父として、君に言えることは一つだけだ」

 玲子が息を詰めるように、将輝の言葉を待った。

「どうか、将吾を、支えてやってくれ。それだけだ」

 玲子の目が、潤んだ。深く、深く頭を下げる。

「……はい。どんなときも、隣で生きてまいります」

 将吾はその横で、静かに目を伏せ、ゆっくりと頭を下げた。

「ありがとうございます、父上、母上。……玲子を迎えられること、心から感謝しております」



 婚約の儀式がつつがなく終わり、座敷に穏やかな余韻が満ちていた。
 志乃は、小さく微笑みながら、ふと玲子へと視線を向ける。

「本当は……少し、不安もありましたのよ。あなたのご出自のことで、周囲からどう見られるかと……」

 玲子はその言葉に、身を固くしかけたが、志乃の目は柔らかかった。

「でも、あなたと向き合って、話して、分かりました。……家格ではないのだと」

 そのときだった。

 ふわりと、室内の空気が揺らいだ。

 風もないのに、掛け軸がかすかに揺れ、障子越しの光が、ほんの一瞬だけ翳る。

「……?」

 誰かが、小さく息を呑んだ。

 そして、そこにいた。

 床の間の前。
 誰も座っていなかった空間に、袴姿の侍が静かに立っていた。

 それは、明らかに「藤堂一将」だった。

 霊など信じぬ将輝でさえ、思わず膝を浮かせるほどに。

 「お、お父上……?」

 将輝の声が、わずかに震える。