明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~



 あまりに自然に、あまりに優しく言うものだから、返す言葉が見つからない。
 玲子はただ、手の中のハンカチをそっと握りしめた。

 そして、少しだけ、将吾の肩に寄りかかる。

「……少しだけ、こうしていてもいいですか?」

「もちろん。今日だけじゃなく、これからも」

 その言葉に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。けれど、それは痛みではなかった。
 あたたかさが、ゆっくりと広がっていく。

(……わたくしは、やっと、幸せというものに触れられた気がします)

 生まれてからずっと、目に見えない檻の中にいた。
 母を失い、父には遠ざけられ、誰にも求められないと思っていた。
 自分は誰かに選ばれるような存在ではないと、ずっと、思い込んでいた。

 でも……。

 今、隣にいる人は、迷わず自分の手を取ってくれた。
 過去も、傷も、すべてを引き受けると、言ってくれた。

 窓の外に流れる光が、にじんで見える。
 けれどそれは、もう悲しみの涙ではなかった。

 静かに、玲子は目を閉じた。
 馬車の揺れが、まるでゆりかごのように心地よく揺れていた。