明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~


***

 馬車は、柔らかな夕暮れの中をゆっくりと進んでいた。
 車窓に映る空は、淡い朱に染まり、まるで祝福するように藤堂の道を照らしていた。

 玲子は、小さく息をつきながら窓の外を見つめていた。
 頬にはまだ涙の痕が残っている。けれど、心の奥にあるものは、もう悲しみではなかった。

 静かで、温かなもの。

 その時、隣に座る将吾がそっと白い布を差し出した。

「……涙、乾いてないよ」

 玲子は驚いて顔を向ける。将吾の目は、いつもと変わらず穏やかだった。
 その優しさに、思わず頬が緩む。

「……気づいてたんですね」

「玲子さんが泣いてると、すぐわかる。不思議なくらい」

 玲子は、小さく笑った。
 少し前の自分を考えると、幸せな涙を流す日が来るなんて想像もつかなかった。

「そんなに、わかりやすいですか?」

「ああ、わかりやすいな。でも……そういうところも、好きだ」