明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 将輝は微動だにせず、そのまま玲子を見下ろすようにしていたが、やがて短く一言。

「……顔をあげなさい」

 声に柔らかさはない。それどころか、何かを試すような硬ささえあった。

 玲子はゆっくりと顔を上げる。その背筋には揺るぎがなかった。気高く、静かに。だが、確かにその場を包む空気は、緊張の糸がぴんと張り詰めていた。

 将吾がそっと玲子のそばに歩み寄ろうとしたとき、将輝は視線を外し、ひとつ息を吐いた。

「先ずは……部屋へ行こう。話は、後だ」

 そう言い残し、彼は屋敷の奥へと無言で歩を進めた。

 玲子の指先が、着物の端をそっと握る。その手の微かな震えを、将吾はすぐに気づいた。

「……やはり、お父上は……わたくしのことを……」

 玲子の声は細く、それでもしっかりと聞こえた。

「……父は、まだ君を知らないだけだ。時間がかかっても……必ず、伝える」

 その声に込められた意志の強さに、玲子は小さく頷いた。