明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~


 将吾は湯飲みを掴んだまま、玲子の切迫した声を受け止めるように一度頷いた。
 そして静かに立ち上がり、縁側へと歩み出る。

「ならば、確かめてみよう」

 その声は低く、しかし迷いのない響きを帯びている。
 分家衆がざわめき、輝明の目が細められた。

 将吾は庭先に目をやり、咲き誇る草花の一角に湯飲みの中身を傾けた。
 さらりとこぼれ落ちた茶が、花弁に触れる。

 次の瞬間、鮮やかに咲いていた花が、みるみるうちに色を失い、力なく首を垂れた。

「……!」
 分家の者たちが息を呑む。

 玲子は膝の上で固く手を握りしめた。
 やはり、あの黒い靄は毒だったのだ。

 輝明はなおも微笑みを崩さなかった。
「……庭の花など、元より弱っていたのであろう」
 そう言い放つ声は柔らかい。
 だが、その指先がわずかに震えているのを、玲子は見逃さなかった。

 花がみるみる萎れゆく様を前に、広間は凍りついたように静まり返った。
 その中で、玲子は膝の上で強く手を握り、震える声を押し出した。

「……このように毒を使って……御自分の父親……一将様を……亡き者にしたのですね」