広間に重苦しい沈黙が落ちる。
それでも輝明は、変わらぬ穏やかさを装って微笑んだ。
「……なるほど。母親の証言、か。だが、子を失った女の口から出ることなど、信憑性はあるまい。悲嘆に暮れて、見てもいない夢を語ったのだろう」
柔らかな声が響く。だが、玲子には分かっていた。
その背にまとわりつく影が、さきほどよりも濃く、淀み、蠢いていることを。
『……見えるか、玲子殿』
一将の声が、玲子の耳元に届く。
『あれこそ、悪しき幽霊に取り憑かれた姿……表は穏やかに見せておるが、内にはもう抑えきれぬ闇が膨らんでおる』
輝明はなおも涼しい顔をしていた。
「それに、大金など……どこからでも出どころはある。人は勝手に“旦那様”と呼ぶものだ」
その口調はあくまで理路整然。
しかし次の瞬間、彼の目がふと光を失った。黒い影がじわりと瞳の奥から染み出す。
さきほどまで穏やかだった顔に、かすかな歪みが走った。
玲子にははっきりと見えた。輝明の背後で黒い影が形を持ち、ゆらりとその輪郭を広げ始めるのを。


