明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 屋敷に通されると、広間には既に数人の年配者たちが揃っていた。
 皆、藤堂家の分家筋にあたる重鎮である。輝明の声かけで集まったのだろう。

「……榊原の娘か」
「藤堂の花嫁にしては、家格があまりにも……」
「藤堂の名を汚すのではと、憂えておりますぞ」

 次々と浴びせられる言葉に、玲子は肩を竦ませ、膝の上に置かれた指先が小さく震える。
 だが、その手を卓の下で将吾がしっかりと握り締めた。触れた部分から温かな力が伝わり、玲子の折れそうになっていた心が支えられる。

 輝明はわざとらしく溜息をつき、両手を広げて見せ、口上を垂れる。

「長年、ワシは藤堂を盛り立てるために尽くしてきた。にもかかわらず、今このような嘆かわしい事態を迎えるとは……。一体、どこで道を誤ったというのか」

 大仰な言葉に、分家筋の者たちは「まったくその通り」と頷きあう。
 その空気は玲子を締めつけ、喉が焼けるように渇いていた。
 目の前には、出された茶碗があるが、先日のお菓子の一件もあり、手を伸ばせずにいる。

 その時だった。
「嘆かわしいのは、叔父上、あなたの物言いの方ではありませんか?」

 凛とした声が、静まり返った広間に尚文の声が響いた。
 柔和な人柄の彼が、敢えて一歩前に出て口を開いたのだ。

「玲子殿は、これまで幾度も身の危険にさらされながらも、誠実に藤堂の家と向き合ってきました。彼女ほどの覚悟を持つ人を、どうして“相応しくない”と申せましょうか」

 尚文の眼差しは真摯で、揺るぎがなかった。