明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 その時、扉が控えめに叩かれた。
「失礼いたします。……お届けものが」
 下女が持参したのは、一通の封書だった。

 将吾が受け取ると、封蝋には見覚えのある紋が押されている。
「……藤堂輝明」

 玲子の顔が強張る。
 将吾は封を切り、中の文を黙々と読み進める。
 手紙を読み終え、苦々しい表情を浮かべた。
 その文面は一見穏やかで、言葉遣いも丁寧だった。だが行間に潜む挑発と、裏に潜む毒の匂いを、将吾はすぐに嗅ぎ取った。

「……招待状のつもりか。いや、これは罠だ」

「あの、どのような内容かお聞きしても……?」

「……手紙には、玲子殿を花嫁として認めるに当たって屋敷に招待すると書いてある」

 それを聞いた玲子の顔色が変わる。
「花嫁として……」

「藤堂の未来を案じているように装いながら、実際にはお前を試すつもりだろう。……弱みを突き、揺さぶり、俺から引き離そうとしている」

 玲子は胸に手を置き、静かに言った。

「……やはり、わたくしが呼ばれたのには意味があったのですね」

 将吾はしばし沈黙し、そしてきっぱりと告げる。

「だが勘違いしている。俺にとっては誰が何と言おうと、お前しかいない」

 玲子の頬がほんのりと赤く染まり、瞳に揺るぎない光が宿った。

「……ありがとうございます。でしたら、わたくしも、覚悟を持ってまいります」

 玲子の言葉に、将吾は静かに頷いた。
 その瞬間、ふわりと灯火が揺れ、部屋に柔らかな風が吹き抜けた。

『……よう言ったの、玲子殿』

 声は玲子にだけ届く。
 振り返らずとも、そこに立つ一将の姿を感じられた。

『そなたが覚悟を決めたのなら、拙者もまた安んじて見届けられる。将吾と共に進め。二人ならば必ず勝てる』

 玲子は胸の奥に温かなものが広がっていくのを感じ、そっと目を伏せて頷いた。

(……はい、一将様)

 灯火が落ち着きを取り戻すと、静まり返った書斎には、決戦を前にしたふたりの息遣いだけが残されていた。