明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 頁(ページ)に書かれた文字を視線がたどる。
 “中枢神経への強い刺激” “心拍数の急上昇” “過剰摂取で心筋梗塞や脳卒中の恐れ”
 これは、ただの薬ではない。
 どこかに不自然な意図が混ざっている。それを見過ごすには、あまりにも不穏な“倍量”の文字だった。

『何か、わかったのか?』

 そう訊ねられても、医学の専門家ではない玲子には、断言など出来るはずもなかった。でも、怪しげな処方内容を見過ごす事はできない。

「もっと、調べない事には何とも言えません」

 そのとき、ふと背後から声がかかる。

「何を見てるの?」

 振り返ると、そこには尚文が立っていた。
 玲子は慌てて紙を畳み、緊張を和らげるように微笑んだ。

「一将様のお薬の記録のようなのですが……少し気になるものがあって……」

「薬か……おじい様は、体は丈夫だったけど、晩年は夜に眠れなかったって、聞いたことがあるよ」

(えっ?それなら、麻黄を夜に倍量だなんて、余計に眠れなくなるのでは……?)

「お薬の管理は、輝明様がなさっていたようですね。お詳しかったのでしょうか?」

 尚文は文箱の中を覗き込んで、ふと思い出したように言った。

「そういえば……うちの輝明叔父さんが、薬草や毒草の本を集めていた。子どもの頃、叔父さんの家の書斎で“漢方医学”って書かれたノートを見せてもらったこともある。だから、詳しかったんじゃないかな」 

「漢方医学……」 

 玲子の中に、冷たい感覚が走った。
 将吾と尚文の叔父である輝明。      

 あの丁寧な物腰の男が、薬について詳しいとは……。
 なぜ? 実業家の輝明様がどうしてそんなものに、興味を?                       
 まるで、空気がひとつ冷たくなったような錯覚に襲われる。