「ええ。いわば、気分を高揚させる作用です。……南洋で使われるクロクサリンドウの抽出液や、希少な異国の花弁由来の成分か……いずれにせよ、催淫剤の一種だと思われます」
メモを取りながら聞いていた将吾の目が細くなり、ペンを持つ手に力が入る。
「催淫剤……副作用などは大丈夫でしょうか?」
「おそらく、薬効が薄まれば、普段通りにすごせると思います」
それを聞いて将吾はホッと息を吐く。
「ありがとう。急に呼び立てて申し訳ない」
「いえ、藤堂様のためなら何時如何なる時でも駆けつけます」
医師が退出したのと入れ違いに、尚文が姿を現す。
将吾は立ち上がると、無言で尚文にメモを差し出した。
紙面を追った尚文の眉がぴくりと動いた。
彼の声は低く、冷ややかだった。
「……これは? 誰が持ち込んだ?花弁由来の高揚剤……これは、ただの悪戯じゃない」
将吾は、握った拳を一瞬だけ机に押し当てた。
「叔父上が……おまえの大切なものなど、こうして汚してやれる。とでも言いたげなやり口だ。守ると誓ったはずだった、それなのに、俺は……」
悔しさと怒り、そして焦燥が将吾の胸を締めつける。 輝明にとっては、これは“ただのお遊び”かもしれない。 だが将吾にとっては、玲子の心と体が冒涜されるような行為だった。
「……いずれにしても、これは一線を越えている」
二人の視線が重なった瞬間、部屋の空気はひときわ冷たく張り詰める。
2階の部屋には、頬にまだ淡い紅を残したまま、玲子は静かに眠っていた。
カーテンの隙間からは、白銀の月光が差し込む。気配はないが、誰かが見守っているような静けさが、部屋を包んでいた。


