明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 輝明はゆっくりと口を開いた。

「ああいう子を……選んだということは、君の見る目は確かなようだ」

 それは称賛だった。だが、続く言葉には静かに圧力があった。

「だが、将吾。君は藤堂の当主となる人間だ。将来、君が名を出せば、それが藤堂家の意志となり、責任となる。……そして、選んだ妻は、君と共にそのすべてを背負うことになる」

 その言葉に将吾の目がわずかに細まる。

「何が言いたいんですか?」

「榊原家は、確かに格式ある旧家だ。父君も、現在は議席を持つ身。表向きの肩書きは、いまだに一目置かれている」

 そこで輝明はふっと、声のトーンを落とし話しを続けた。

「だが……世間は冷たい。継母が逮捕されたとなれば、どんなに立派な演説をしようが、男爵家も議員も、“身内に殺人犯を出した家”としか見られなくなる」

 将吾の眉がわずかに動く。

「……彼女に罪はない。むしろ実母を殺された被害者だ」

「もちろんだ。私もそう思う。しかし、社会はそうではない」
 輝明は静かに続ける。

「君の伴侶が誰かということは、藤堂の名に直結する。正直に言えば、現時点で榊原家との縁組は“政治的なリスク”と見られてもおかしくない」

「そんな理屈で、誰かの人生を量るのか」

「理屈ではない。現実だ。……君が当主になる以上、そうした現実から目を背けることはできない」