玲子の声は震えていた。長い孤独と痛みによって育まれた劣等感が、最後の一歩を踏み出すことをためらわせていたのだ。
将吾はその言葉に眉を寄せ、一歩近づいた。
そして、玲子の両手を優しく包み込み、静かに首を振る。
「玲子殿……“わたくしなど”などと二度と口にするな」
低く、けれど揺るぎない声音だった。
「お前でなければ駄目なんだ。俺が心から守りたいと思ったのは、玲子殿だけだ」
真っ直ぐな眼差しに射抜かれ、玲子の胸は大きく揺れる。頬が熱く染まり、潤んだ瞳が将吾を映し出す。
「……将吾様……わたくしもお慕い申しております」
淡い感情の輪郭が、やがてはっきりと「恋」という形をとって胸の内に広がっていく。
将吾は無言でそっと手を伸ばし、玲子の頬を包み込む。
大きくて、あたたかい手だった。これまで誰にも預けたことのない心を、たしかに託された気がした。
ふいに、将吾の顔が近づき、玲子の視界は将吾でいっぱいになる。
すると、唇に柔らかく温かな感触……。
将吾の想いを受け取るように、玲子はそっと瞼を閉じた。
感じるのは、心が蕩けるような、甘やかな熱だった。
「だから俺のそばにいてくれ。……これから先もずっと」
玲子の心の奥で長く凍りついていたものが、静かに解けていくのを感じた。
その想いに突き動かされるように、彼女は小さく、けれどはっきりと頷いた。
「……はい。わたくしも、将吾様と共に生きていきたいと思います」
そのとき……。
『ふふふ……ついに、ここまで来たかのう……』
ふわりと現れたのは、一将だった。
柱の影に腕を組んで浮かびながら、目を細め、にやけ顔で頷いていたのだった。


