「一将様、お顔を上げてください。どうか……。そんな風に頭を下げられては、わたくし……気が咎めてしまいます」
懸命に訴えるも、一将は幽霊。
玲子の手は、やはり何も掴めず、頭を上げさせる事は出来なかった。
それが、どこかもどかしくて、切なく感じられた。
『将吾の命の恩人に、何一つ返せぬとは……。こうして言葉をかけることすら、見える者が限られるこの身が、悔しい』
「恩返しなど……本当に、不要です。将吾様が無事で、それだけで、十分です」
心の奥には父・隆之の怒りを想う不安があった。
だが、誰かを救えたという確かな実感が、それを少しだけ和らげてくれていた。
『玲子殿のように、まことに心の美しい人間に……拙者、生きておるうちに一度、会ってみたかった』
玲子は、はっとしたように目を伏せ、頬を染める。
「あまり、買いかぶらないでください。一将様……。わたくしは、そんな立派な人間では……」
そしてまた、ふたり。いや、一人と一霊は、互いに頭を下げ合い、謝り合った。
その光景はまるで、幽霊と少女の謝罪合戦である。
が、傍から見れば、東屋の下、玲子がひとり膝をついて、宙に向かってぶつぶつと話している、奇妙な姿だった。
もちろん、玲子はまだ知らない。
将吾が静かにその背後に立ち、物陰からその様子を見ていることも……。
懸命に訴えるも、一将は幽霊。
玲子の手は、やはり何も掴めず、頭を上げさせる事は出来なかった。
それが、どこかもどかしくて、切なく感じられた。
『将吾の命の恩人に、何一つ返せぬとは……。こうして言葉をかけることすら、見える者が限られるこの身が、悔しい』
「恩返しなど……本当に、不要です。将吾様が無事で、それだけで、十分です」
心の奥には父・隆之の怒りを想う不安があった。
だが、誰かを救えたという確かな実感が、それを少しだけ和らげてくれていた。
『玲子殿のように、まことに心の美しい人間に……拙者、生きておるうちに一度、会ってみたかった』
玲子は、はっとしたように目を伏せ、頬を染める。
「あまり、買いかぶらないでください。一将様……。わたくしは、そんな立派な人間では……」
そしてまた、ふたり。いや、一人と一霊は、互いに頭を下げ合い、謝り合った。
その光景はまるで、幽霊と少女の謝罪合戦である。
が、傍から見れば、東屋の下、玲子がひとり膝をついて、宙に向かってぶつぶつと話している、奇妙な姿だった。
もちろん、玲子はまだ知らない。
将吾が静かにその背後に立ち、物陰からその様子を見ていることも……。


