明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 その日、榊原家の庭には椿の花がひっそりと咲いていた。その花びらが一枚、風に吹かれて舞い落ちたとき、女中たちはふと足を止め、思わず小声で呟いた。

「……“正妻による妾の殺害教唆”……だってさ」

 その一言に、他の者たちがざわめく。

「ほんとに? あの百合絵様が?」

「ついに判決が下ったのよ。懲役十五年だって」

 若い女中が眉をひそめ、年配の女中がぽつりと呟く。

「昔は、“ふしだらな女の娘”なんて言って玲子様をいびってたのに……いまや、舞香様が“人殺しの娘”と呼ばれるなんてね」

 
 台所裏で、使用人たちが夕餉の支度をしながら、ぽつりぽつりと噂を交わしていた。
 炊き上がった白米の湯気が立ちのぼり、味噌汁の香りが小さな竈の隅に漂っている。そんな中で、年配の女中が火加減を見ながら、小声で話し出した。


「でも、母親が主犯だったなんて、ちょっと、可哀想よね」

 味噌汁をかき混ぜながら、年配の女中が鼻を鳴らした。

「可哀想? 何言ってるの。昔は、ことあるごとに“妾腹の子”だの“ふしだらな女の娘”だのって、玲子様を見下していたくせに」

 噂話に熱がこもり始め、誰かが声を潜めて続けた。

「聞いた話だけどね、親戚筋の寺にしばらく預けられることになったらしいのよ。出家みたいなものよね」

「嫁に行くったって、あんなにケチがついたんじゃ、年寄りの後妻ぐらいしか、貰い手がないわね」

 静かに火をくべていた下働きの女中も、手を止めて呟く。

「……まったく、因果応報ね」