明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

「アハハ、あなたが、あの女の忘れ形見の玲子に辛く当たるのを見る度、胸がすく思いだったわ」

 百合絵は視線を逸らした。もう、その目に勝ち誇った光は残っていない。

「おい、歩け!」

憲兵に促され、百合絵は引きずられように歩き出す。
 隆之はその姿に絶望したように口元を歪め、膝をついた。

「千賀子……すまなかった……。玲子……すまん……すまん……!」

 年老いた男が嗚咽を漏らす姿に、誰もが言葉を失った。

 将吾はしばらくその様子を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
 深く一息を吐き、将吾は嗚咽を続ける隆之に向かって静かに告げた。

「……千賀子さんが遺棄された場所を、共犯の男が白状した」

 隆之が、はっとして顔を上げる。

「なに……?」

「遺体の遺棄場所ですが……町外れの山道沿い、庚申塔の近くにある古井戸だと、共犯の男が証言しました。石で封をして、草を生い茂らせて隠したそうです」

「古井戸……」

 隆之は、震える声で呟いた。
 かつて愛した人を思い出すように、目を細める。

 将吾が静かに言葉を継ぐ。

「当時、山仕事の休憩所に使われていた小屋の裏手にあった井戸だそうです。もはや使われなくなり、今では地元の者でもほとんど覚えていないような場所に……。
これから専門の者が同行し、井戸の中を調査する予定です。……ご遺骨が残っていれば、丁重に引き上げて、正しく弔うつもりです」

 隆之は、その場に崩れ落ちそうなほど肩を落とした。

「……千賀子……こんなにも長い間……そんな冷たいところに……」

 膝にすがるように手をつき、言葉にならない嗚咽を漏らす。

 将吾は、その姿を静かに見守っていた。やがて隆之は、顔を上げる。

「案内してくれ。……千賀子を迎えに行こう。せめて、せめて、帰る場所を作ってやらなければ……」

その背は、かつて玲子に冷酷な言葉を浴びせ続けていた男のものとは、まるで別人のようだった。