明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 将吾は足を高くあげ、男の太ももを蹴り上げた。
 ガッツと革靴の先端が男の足にめり込み、さっき開いた傷口がさらに広がり、鮮血が浮きでる。

「うぁぁぁぁ!」

 男は、このまま黙秘を続けたなら、どんな取り調べを受けるのだろうかと、想像しただけで、背筋に冷たいものが走る。
 そして、将吾は静かに追い打ちをかけた。

「……お前が殺した女が感じた苦痛の何十倍もの目に遭わせてやる」

 その言葉に、男の瞳が揺れ、しばらくの沈黙のあと、ぎこちなく口が開いた。

「……榊原百合絵の依頼だ」

 将吾の目が鋭く光った。
 男は、しぼり出すように続ける。

「……十二年前、あの女が『旦那様が心を移した女がいる。邪魔者だ。千賀子という女を消してほしい……と、色仕掛けと金で引き受けた」

「どうやって……やった?」

 男は震える声で答えた。

「百合絵が女を連れ出して、山奥まで馬車で運んだ。細道に入ったところで、『用事がある』って言って降ろして……古井戸へ落とした」

「そのとき、報酬の受け渡しは?」

「現場で直接。百合絵の手から袋を受け取った……紺色の絹の袋だった。今回の件も似たような袋を受け取っている……」

 室内に、どこかから風が吹き抜けたかのような冷たい沈黙が満ちた。

 将吾は、拳を握りしめたまま、男をじっと見下ろしていた。
 怒りではない。
 言葉にならない悲しみと、使命感が、瞳の奥で静かに燃えていた。