男が目を細める。
将吾は机の上に書類を広げ、その中の一通の古びた証言書を指先で叩いた。
「十二年前、千賀子という女性が、突如姿を消した。当時、彼女は榊原家のお妾だったが、使用人との駆け落ちだと処理された……だが、違うんじゃないか?」
男の喉がごくりと鳴る。
「あの駆け落ちが作り話だったと踏んでる。お前、心当たりがあるんじゃないのか?」
「……知らねえよ。勘違いじゃねえのか?」
将吾は、そこで初めて表情をわずかに崩した。
「そうか……じゃあ、お前と男爵夫人がずいぶん長い間、懇ろな関係だったっていうのは、勘違いとは言わないよな」
「ハッ、なに言ってんだ。それも勘違いだろ」
それを聞いた将吾の声のトーンが低くなる。まるで、獲物を仕留める野生動物の威嚇のように。
「お前は榊原百合絵の手駒、いや情夫なんだろ?逢引きに使っていた茶屋の店主、榊原を辞めた使用人の証言も揃っている。誤魔化しても無駄だ」
「……さあな」
「榊原男爵夫人の百合絵に何を言われて、罪を重ねたのか知らんが、百合絵にも逮捕状がでている。お前も百合絵も……終わりだ」
百合絵まで逮捕されると聞いて、男の目が鋭く動いた。
「終わりだと?」
「ああ、謀殺が適応され、極刑は免れないだろう」
「……」
「だが、自白の内容と協力の程度によっては、刑が軽くなるように口利きができる。……その代わり、洗いざらい話してもらう」
男は信じられないと思ったのか、口を引き結び、沈黙する。
「別に無理にとは言わない。どうせ、今、訊いた事について黙ってようが、いずれ、口を利きたくなるようにするだけだ」
将吾の怒気を孕んだ声は、男を震え上がらせるのには、十分な迫力があった。


