明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 ぽつりと返されたその声に、尚文はふと言葉を失う。

「……ああ、すまない」

 そのまま懐から、紙袋をそっと取り出すと、玲子のそばへと歩み寄る。

「これ……さっき、玲子君が見ていた前掛け。店で見つけて、買っておいたんだ。……あの時、君が可愛いって言ってたから」

 玲子の目が、驚きと戸惑いで揺れた。

「尚文様……わたくしのために?」

「……すぐに戻るつもりだったんだ。だから、安心して買い物をしてくれていると思ってた。でも、それが仇になった。本当に、申し訳ない」

 玲子は、目に浮かぶ涙を堪えながら、そっと袋を受け取った。

「……嬉しいです。ありがとうございます。わたくし……こうして、誰かに思い出してもらえることが、夢のようです」

 すると、その場にふわりと一陣の風が吹き込む。
  障子の隙間から、ふっと入ってくる気配に、玲子ははっと顔を上げた。

『……まったく、もう。心臓に悪いとはこのことでござる』

 現れた一将は、空中に腕を組み、浮かんだまま玲子を見下ろしていた。
 その表情には、明らかな安堵と、どこか呆れたような気配が混じっている。

『拙者が我が儘を言えと、進言したせいで、玲子殿が攫われる羽目になったのではと……本当に、胸が潰れる思いであった』