明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

『拙者がもっと早く将吾を見つけておれば……不甲斐ない祖父で済まぬ……』

 玲子は首を横に振る。

「いえ、助けていただきました……。わたくし、生きてここに居ますから」

 一将は、まるで泣きそうな顔で、空中に目を伏せた。

 そのやりとりの向こうで、尚文は壁にもたれ、静かに玲子たちを見守っていた。
 彼の目には微かな悔しさと安堵の混じった感情が浮かんでいた。

「……俺が、目を離さなければよかった」

 小さな声だったが、それは確かに将吾の耳に届いた。
 将吾は玲子を抱き寄せた腕をそっと緩めると、尚文の方へ顔を向けた。

「いいや、お前が機転を利かせてくれたから、この場所にたどり着けた」

 その言葉には、怒気も皮肉もなかった。
 ただ、信頼の色が込められていた。
 尚文は少しだけ目を伏せ、苦笑する。

「ありがとう。……でも、俺は、きっと忘れられないよ。あのときの、玲子君を見失った衝撃を」

 玲子が申し訳なさそうに、小さく「すみません」と呟いた。
 
 そして、空の上では、一将は腕を組み、孫たちの背中を見つめながら、うんうんと頷いていた。

『よし、よし。皆、無事で何よりだ』