明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~


「落ち着いたか?」

 将吾が低く、穏やかな声で訊ねる。
 玲子は、しばらくの沈黙の後、そっと顔を上げた。
 涙に濡れた瞳が、将吾を真っ直ぐに見つめる。

「……すみません。わたくしの我が儘で、こんなことに……」

 そう言って、玲子は俯こうとする。
 だが、その動きを将吾の手が止めた。
 指先が、玲子の顎をそっと持ち上げる。

「自分を責めるな」

 その言葉は、硬さのない、柔らかい響きをしていた。

「お前は何も悪くない。……俺が、もっと早く気づいていれば」

 そう呟いた将吾の眉間には、深い悔しさが刻まれている。
 その時だった。

『やれやれ……まったく、心臓に悪いでござる……』

 ふわりと空中に現れた一将が、肩をすくめるようにして呟いた。
 彼の視線は、玲子に注がれている。

『玲子殿、無事で本当に……本当によかった』
 
 その声は玲子にだけ届く。