明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

「でも、一将様とお話できて……少し、心が軽くなりました。ありがとうございます」

 玲子がそう言った時だった。
 視線の先、談笑する将吾と尚文のもとに、飲み物を乗せた給仕が現れた。尚文が声をかけ、ふたつのグラスを受け取る。
 刹那。
 玲子の肌に、突如として冷気が走った。
 一将の気配が、明らかに変わったのだ。

『……あのグラス、ただならぬ気が漂っておる。頼む、玲子殿。将吾が口にする前に、止めてくだされ!』

「えっ?」

『尚文のではない、将吾の方だ!』

 玲子は、条件反射のように駆け出していた。
舞踏会のきらびやかな場にふさわしくない行動だと、頭ではわかっていた。

 けれど、身体が……心が……動いていた。

(止めなきゃ……飲ませちゃダメ!)

 将吾が唇にグラスを寄せた、その瞬間。

「――っ!」

 玲子は手を振り抜き、グラスをはじき飛ばした。
 パリンッ 。
グラスが砕け、液体が床へ飛び散る。
 しん……と、静まり返り、場の空気が凍りついた。