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尚文が立ち去ったあと、玲子は小間物屋の店内で、棚いっぱいに並んだ羽織紐を前に目を輝かせていた。
淡い桜色に、金糸が織り込まれたもの。
深い藍に、銀の房がついたもの。
細やかな組紐の編み目ひとつひとつに、職人の技と温かみが宿っていて、まるでどれもが、一将への想いを形にしてくれるようだった。
「うーん……どれが、一将様に似合うかしら」
顔をほんのり紅く染めながら、玲子は一つひとつ手に取り、確かめるように光にかざす。
ときおり、思い出したように店主に相談し、微笑みを浮かべては頷いていた。
そのときだった。
店の入り口の戸が、カラリと開く。
ふと気配を感じて顔を上げた玲子の瞳に、見覚えのある和装の女性が映る。
「……お義母……様?」
玲子が思わず声に出すより早く、百合絵の顔には、作り物めいた笑みが浮かんでいた。
玲子の瞳には、百合絵の周りに黒いモヤが視える。
《《悪しきモノ》》の気配だ。
その禍々しさに、ゾワリと怖気がたつ。
「あら、まあ……こんなところで会うなんて。お買い物?」
「は、はい……」
「いい加減、家に戻っていらしたら? 本当、男に取り入るのが上手いんだから」
「そ、そんなことは……わたくし、用事で来ておりますので、失礼いたします」


