明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

百合絵は、店先に並ぶ羽織紐を前に微笑む玲子の姿に、思わず足を止めた。
 久しぶりに目にするその顔は、見違えるほどだった。

 ――上等な生地の着物をまとい、頬はふっくらと艶を増し、目元にはかつて見たことのない明るさが宿っている。
 あれほど惨めで、鬱屈とした少女であったはずの玲子が、今や瑞々しい美しさを放っている。

 その瞬間、百合絵の胸を強くよぎったのは、玲子の母・千賀子の面影だった。
 千賀子もまた、誰もが振り返るほどに美しい女だった。夫・隆之があれほどまでに夢中になったのも当然だと、百合絵は歯噛みする。

(千賀子の娘だからといって……。わたしが、あの人にどれほど惨めな想いをさせられたか……)

 かつて味わった劣等感と嫉妬心が、再び胸の奥で膨れ上がっていく。
 今の玲子の姿は、百合絵にとって過去の屈辱をまざまざと突きつけるものだった。

 胸の奥で煮え立つ感情に突き動かされるように、百合絵は視線を横へ流した。
 少し離れたところに控えていたのは、長年密かに関係を持つ情夫。粗野な風貌の男である。

 玲子は夢中で羽織紐を選んでおり、周囲には気を払っていない。
 今この瞬間、誰の庇護もなく、ひとりきりだ。

 百合絵は男と目を合わせ、口元にかすかな笑みを浮かべた。
 その眼差しは「好機を逃すな」と告げている。

(玲子さえいなければ……。藤堂の家に嫁ぐのは舞香の方が相応しい)

 甘やかな香りのする小間物屋の軒先で、百合絵の胸には黒い決意が芽生えていた。
 それは単なる嫉妬ではない。冷酷な企みだった。