明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~


 その様子に、玲子はハッと我に返り、慌てて口を手で押さえる。

「す、すみません……。わたくしが、我が儘を言っても……いいのでしょうか?」

『玲子殿の我が儘など、可愛いものじゃ。将吾や尚文だって、甘えられたら悪い気はせん。男というものはな、誠に単純な生き物でござる』

 とはいえ、我が儘を言えと言われても、玲子には何を望めば良いのか思い浮かばなかった。
 藤堂家に来てからというもの、上げ膳据え膳。部屋の掃除までお手伝いさんがしてくれる。
 荒れていた手も今ではすっかり綺麗になり、ふかふかのベッド、裁縫用の部屋まで与えられている。
 これ以上ないほどの贅沢な暮らし。

『それでも、なにか一つぐらい望みがあるであろう?』

「そうですね……強いて言えば、町にお買い物に行きたいです」

『買い物とな?』

「はい。一将様の羽織紐を選びに、町へ行きたいなと思いまして」

 その答えに、一将は、ふっと目を細めた。
 自分のためではなく、誰かへの贈り物を「我が儘」として口にする。なんと玲子らしいことか。

『まったく……誠に可愛いことを申す。左様であれば、早速、書斎に参ろう』

「えっ、今ですか?」

『善は急げと申すであろう』