冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます

 社長の笑顔を見るという稀な体験はこの日以来しばらくなくて、あれはやっぱり夢だったのかもしれないと思い始めていた。
 それなのに私の心の中には社長の笑った顔が焼きついていて、また見ることができないかな、なんて毎日密かに期待していたりする。
 
 社長と、秘書である私の間には、仕事上の関係しかない。だから私にだけ特別笑いかけてくれることを期待するのはおかしなことだ。
 じゃあ、一社員の私ができることはなんだろう、と考えてみる。
 
 少しでも社長のことをわかってもらえたら……と思って、私は同僚との雑談で社長の意外なエピソードを披露してみることにした。
 しかし、なかなか伝わらない。
 だって「社長が水玉模様のちょっとオシャレな靴下を履いていた」と言っても、同僚たちはまったく信じてくれないのだ。
 
 それどころか逆に私が社長に変な関係を強要されているのではないかと心配されてしまう。
「社長はそんな人じゃないよ」とむきになったら、同僚たちは一斉に怪訝な顔をして、私の反応に引いたようだった。