冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます

「後藤さんはいくつ?」
「二十四です」
 
 なぜそんなことを聞くのだろう、と思いながら答えると、社長はコーヒーを一口飲み、「うん、知っていた」と言って笑った。
 
 一瞬何が起こったのかわからず茫然とする。
 気がつけば、トレーをものすごい力で握り締めている自分がいて、今は目を開けたまま夢でも見たような気分だった。
 
「少し寝る。何かあったら起こして。電話は急ぎじゃなければ折り返しで」
 
 社長はコーヒーカップをテーブルの上に戻すと、またソファに横たわった。
 足が長いのでソファからはみ出している。靴下が水玉模様でかわいい。彼の冷たい印象とかけ離れた模様だ。

 たぶん昨晩は遅くまで仕事をしていたのだろう。
 日中に私用を入れたので、その分の仕事を事前に終わらせてあったようだし、昨日のうちにお願いしてあった確認書類やメールは、今朝すべてチェック済みで私のデスクに戻されていた。
 
 社員が帰った後のオフィスのほうが仕事がはかどる――と社長は言っているけど、社員の仕事ぶりを当日のうちに確認してくれるおかげで、翌朝出社した社員たちは円滑に業務を進めることができる。
 このスピード感でこの会社は成長してきたのだ、と社長の仕事ぶりを見てつくづく思う。
 
 それなのに、これが当たり前の日常になっているから、社長に感謝する社員はほとんどいない。
 むしろプレッシャーだと明言する人もいるくらいだ。
 社長の仕事が早くてほぼ完璧だから、社員にも同レベルを求められたらたまったものじゃない、と。

(その上、みんな、あの冷たい表情しか見てないからね……)
 
 だから私は、冷酷な表情のせいで社員たちから怖がられているのがもったいない、と感じてしまう。
 仕事に適度な緊張感は必要だけど、恐怖政治のような構図を社長自ら作り出しているのは、会社にとってよいこととは思えない。
 もちろん社長自身も得することなど一つもないのだから。

(もどかしいな。社長の心配りを私以外、誰も気がついていないなんて)

 飲み終えたコーヒーカップをトレーにのせて退室しようとしたとき、目を閉じた社長の姿が視界に入る。綺麗にそろった睫毛(まつげ)と穏やかな表情に胸がドキッとした。
 だけど私は何もなかったように、静かに社長室を出た。