冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます

 私はトレーを持ったまま立ち止まる。
 
「はい。弟が一人います」
「そうか。いや、そうだな。君はしっかりした姉さんという感じがする」
 
 社長は頭の後ろで腕を組んで伸びをした。
 彼が私をそんなふうに見ていたことに意表をつかれて、その場から動けない。
 どうしようか、と思ったところで社長は身を起こしてコーヒーを口にした。
 
「俺には今年二十歳になる妹がいるんだ。俺とは一回りも離れているから、仲がいいとか悪いとかいうレベルじゃないんだけど、部屋を借りたいから一緒について来てくれと頼まれて、仕方なく行ってきた」
「そうだったのですね」
 
 私はその光景を思い浮かべてみた。
 この冷たい目をした美貌の男性が、歳の離れた妹に振り回される図がおもしろく、微笑ましい。
 
「でも、あれは男だな」
 
 愉快な想像を打ち消すように社長は言った。
 
「えっ?」
 
「まだ大学生で、実家から通うほうがいろいろと都合がいいはずなのに、わざわざ部屋を借りるなんて、理由は男に決まっている。その部屋の品定めを俺に頼む妹の神経がわからない」
 
「社長は妹さんから慕われているんですね」
 
 私はほとんど確信に近い思いで言った。
 そんな秘密を含んだわがままを言っても、聞いてくれる兄がいたらどんなに心強いだろう。
 学生時代に何度か私にも兄か姉がいたら、と思ったことがあるから、社長の妹という身分は純粋に羨ましくもある。
 
「それはどうだかわからないけど、妹がもうそんな年齢になったのかと複雑な気分だよ」
 
 社長は大きくため息をついた。そしてふと私を見る。