冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます

「あっ」
 
 考え事をしていたらしく、目を上げて短く声を発したのは相手のほうだ。
 
「食事中か。すまない」
「いいえ、もう済んだところです」
 
 私は立ち上がって一礼する。
 彼が私の前を通り過ぎるまで、こうして礼をするのが私の日課だ。
 
 他は電話の応対と予定の確認、社長から依頼された資料や文書の作成、そして来客時にお茶かコーヒーを運ぶくらいのことしかしていない。
 ここに来るまでは漠然と社長室勤務は大変そうと想像していたが、今は思ったよりも楽な仕事だと感じていた。
 
 普段は社長室のドアが開く音がするので、それを合図に頭を上げるのだけど、一向にドアの開閉音が聞こえてこない。
 不思議に思いながらおそるおそる顔を上げると、私のデスクの前に社長が立っていた。
 
「この劇団が好きなのか?」
 
 私は目を大きく開いて社長を見上げた。長身である彼の顔を見ようとすると、首をのけぞるように後方へ傾けなければならない。
 端整な顔立ちだが、常に厳しい目つきをしていて、氷のように冷たい印象の人だ。
 普段声を荒げるようなことはないのだけど、その表情を少しも変えずに冷酷な命令を下す場面は何度か目撃している。

(どうしよう……。気に障ったのかな)
 
 私はドキドキしながら、ぎこちなく頷いた。