冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます

「社長は外出中ですが、ご用件は?」
『社長に頼まれた品をお持ちいただいたとのことです。お通しいたしますので、ご対応よろしくお願いいたします』
 
 受付の澤田さんは一方的に用件を伝えて電話を切る。

 彼女は私の苦手なタイプだ。ピンと伸びた背筋と、ツンと澄ました表情が印象的な先輩で、私が社長秘書に抜てきされたことを知ると、率先して私の陰口を叩いていたと同僚から聞かされた。
 
 どうやら澤田さんはひそかに社長秘書の座を狙っていたらしい。
 彼女は常に取り巻きの女性社員を数名はべらせている。その取り巻きたちはこぞって「澤田さんが社長秘書になるべきだ」とちやほやしていた。
 だからおそらく澤田さん自身も「自分こそが社長秘書にふさわしい」と思っていたはず。
 
 それゆえ、私が社長秘書に抜てきされたことを快く思っていないようだった。
 
 でも直接聞いたわけではないから、澤田さんのことは意識しないようにしてきた。
 もめごとを起こしたくない私は、一貫して無関心を装っている。
 対立して火花を散らしたところで、得られるものはひとつもない。

 でも嫉妬を隠さずオープンにしている澤田さんは、私よりはるかに自分の気持ちに正直な人なのだろう。
 素直じゃない私は、少し彼女を見習ったほうがいいかもしれない。
 
 それにしても、仕事上でツンツンした態度を取られるのは気分が悪い。
 こちらの都合を聞きもしないところをみると、ご自身の判断に絶対的な自信があるらしい。
 
(というか、その態度はたぶん()()()()していますよね?)
 
 何となくもやもやした気持ちで受話器を置くと、エレベーターの動き出す音がした。
 あの古東さんがわざわざやって来るとはどんな用件だろう。
 そのことを考え始めると澤田さんのことなどどうでもよくなり、古東さんへの好奇心がむくむくと顔を出す。