担任の先生の声に、美亜は大きく息を吸い込んだ。




舞台袖から覗く観客席は、既に満員御礼。




緊張が走るが、それと同時に、不思議な高揚感が美亜を包み込んでいた。
 





 「よし、やるか!」




 
 美亜は、ジュリエットになりきり、舞台へと駆け出した。






しかし、物語は、美亜の予想を遥かに超える展開を見せる。






ロミオ役の早瀬くんは、緊張のあまりセリフを飛ばし、明里が演じるジュリエットの侍女は、舞台袖に置かれていたカエルのおもちゃを落とし、それが舞台上を転がっていく。





さらには、観客席から、弘美が「その攻撃、マジでクソゲー!」と叫び、直人が「そんな悲鳴、俺様の美貌の前では無意味だ!」と叫ぶなど、ハプニングの連続だった。
 





 「あーもう!みんな、ちゃんとやってよ!」





 
 美亜は、内心でツッコミを入れながらも、必死で舞台を進行させようとした。






しかし、そんな混乱の中、ふと、美亜の視線はある人物を捉えた。





それは、観客席の一番後ろに座っていた、如月先生だった。






如月先生は、美亜の姿を見て、静かに微笑んでいる。






その笑顔に、美亜は、まるで魔法にかかったように、一瞬、全ての緊張が解けた。
 




 「...!」




 
 その瞬間、美亜は、まるでジュリエットになったかのように、心からの感情を込めて、セリフを口にした。






それは、これまでの練習の成果、そして如月先生への密かな想いが、一体となった、渾身の演技だった。
 





 「...といったところで、ロミオ役の登場です!」




 
 ナレーションの声が響き渡り、舞台の袖から、一人の青年が現れた。





その青年は、すらりとした長身で、穏やかな雰囲気を纏っていた。そして、その顔を見た瞬間、美亜は、息を呑んだ。





 
 「え...?うそっ...!」




 
 そこに立っていたのは、なんと、美亜が密かに想いを寄せている、如月先生だったのだ!
 





 「ロミオ様...?」




 
 美亜は、信じられないものを見るような目で、如月先生を見つめた。





如月先生は、そんな美亜に、優しく微笑みかけた。





 
 「ジュリエット、君を待っていたよ。」






 
 その声は、まるで、物語の中から抜け出してきたかのようだった。




観客席は、どよめきに包まれた。





まさかの展開に、クラスの男子たちも、明里も、直人も、弘美も、皆、目を丸くしている。






しかし、美亜の心は、喜びと驚きで、いっぱいに満たされていた。
 






 「先生...!?」






 
 「ああ。早瀬くんがトイレからでてこなくてですね。僕が通りかかったときに、ダイイングメッセージを囁くように頼まれまして、急遽交代したんですよ。」





 
 如月先生は、そう言って、美亜の手に、そっと自分の手を重ねた。




「(ナイッスー!!グッジョブッ!!早瀬くん!!)」





その瞬間、美亜の心は盛大にピースしていた。





それは如月先生への恋への自覚でもあった。





そう、これは、予想外の、しかし、最高にハッピーな、学園コメディの、フィナーレにふさわしい、奇跡のような展開だったのだ。







美亜は、如月先生と見つめ合い、思いっきり笑った。







笑いと感動、そして予想外の展開が交錯した、この文化祭は、美亜にとって、一生忘れられない、特別な一日となった。





生徒会室のドタバタな日常から始まった物語は、こうして、予想外のロマンスという、甘酸っぱいアオハルな結末を迎えたのだった。
 



 
 ちなみに、早瀬くんはまだ便座とトゥギャザーしていた。