「...ふう。なんとか、佐藤くん、落ち着いてくれたみたいだね。」






 美亜は、ようやく普段の口調に戻った佐藤くんを見て、安堵のため息をついた。




先ほどの戦国武将モードは、一体何だったのだろうか。




まるで、夢でも見ていたかのようだ。





とはいえ、秘密が露呈してしまった以上、このままでは済まされない。







 「佐藤くん、さっきは本当に驚いたよ。でも、その...眼鏡を外すと、あんな風になっちゃうんだね。」






明里は、まだ少し怯えたような、でも興味津々な目で佐藤くんを見つめている。





「ええ...その、大変失礼いたしました。僕、眼鏡を外すと、どうも別人格になってしまうようで...。」






佐藤くんは、以前にも増して真面目な表情で、深く頭を下げた。






「この、どうにもならない癖を、なんとか克服したいと思い、生徒会に相談させていただいた次第です。」






 「なるほどね。それで、どうして眼鏡を外すと、あんな風になっちゃうんだろうね?何か原因とか、心当たりとかないの?」






美亜が尋ねると、佐藤くんは首を横に振った。






「それが、自分でも全く分からないのです。ただ、眼鏡を外した瞬間、まるで昔の自分に戻ったような、あるいは、別の誰かになってしまうような感覚に襲われます。」






 直人は、自分の姿を鏡で確認しながら、「ふむ、俺に言わせれば、それは単に精神的な弱さの表れだろう。もっと自己肯定感を高めるべきだ。例えば、俺のように、常に自分の美貌に酔いしれることだ。そうすれば、どんな状況でも冷静さを保てる。」と、相変わらず自分中心のアドバイスをしている。






佐藤くんは、直人の言葉に、少し戸惑っているようだった。







 弘美は、ゲームの攻略サイトでも見ているのか、画面に集中している。







「まあ、原因究明って感じじゃなくて、とりま、眼鏡をかけずに生活できるようにするとか?コンタクトとか、どう?」





 その言葉を聞いた瞬間、明里の目がキラリと光った。






「あ!コンタクトレンズ!そうか!佐藤くん、コンタクトレンズにしたら、眼鏡を外さなくても良くなるんじゃない?」






「コンタクトレンズ...?」佐藤くんは、その言葉を反芻するように呟いた。








 明里の提案は、一見すると突拍子もないように聞こえたが、佐藤くんの心に響いたようだ。






彼は、真剣な表情で、明里の言葉を咀嚼していた。






「確かに、それならば...眼鏡を外すという、あのトリガーを回避できるかもしれません。」






 「そうだよ!それに、コンタクトレンズだと、もっとスッキリして、かっこよくなるかもしれないよ!」明里は、さらに熱弁をふるう。








 佐藤くんは、しばらく考え込んでいたが、やがて、力強く頷いた。






「ありがとうございます、明里さん。そして、皆さん。私、決意しました。この『眼鏡を外すと戦国武将になってしまう』という悩みを、コンタクトレンズを試すことから、克服していきたいと思います!」








 その言葉に、生徒会メンバーは、それぞれに顔を見合わせた。




美亜は、佐藤くんの決意を、頼もしく感じていた。






直人は、「ふむ、俺のアドバイスも、多少は役に立ったようだな。」と、自分の手柄にしたがっている。






弘美は、「よっしゃ!これでクエストクリアに近づいたな!」と、ゲームのように捉えている。








明里は、「やったー!佐藤くん、応援してるよ!」と、純粋に喜んでいた。







 佐藤くんの悩みを解決するための、新たな作戦が始まった。







それは、コンタクトレンズという、一見シンプルな解決策から始まる、彼自身の成長への第一歩となるだろう。








生徒会メンバーは、それぞれの個性を活かして、佐藤くんを全力でサポートすることを誓った。








この学園に、また一つ、温かい友情の物語が生まれようとしていた。