その時、生徒会室のドアがゆっくりと開いた。現れたのは、ランチタイムでトマトに夢中な直人だった。
 




 「うむ、このトマトの赤色は、まさに芸術だな。俺の美貌に匹敵する輝きだ...。」





 
 直人は、トマトを頬張りながら、うっとりと呟いた。





その横顔があまりにも眩しすぎたのか、明里の目が大きく見開かれた。
 




 「...!トマト...!あの、美味しそうなトマトが...!ゲシュタルト崩壊する!」
 





 「は?ゲシュタルト崩壊?明里、大丈夫か?トマト食べたいのか?」
 






 直人は、トマトを差し出しながら尋ねる。





しかし、明里は首を横に振った。
 




 「違うの!直人の顔見てたら、トマトが...トマトが、もう、トマトじゃなくなっちゃうの!」
 






 そう言うなり、明里は直人の前に立つと、勢いよく膝を狙って走り出した。
 





 「いたっ!」
 






 直人は、明里の膝かっくんに見事にやられ、バランスを崩してよろけた。トマトが床に転がり、無残な姿を晒す。
 






 「明里!何するんだ!俺の芸術的なトマトが!」





 
 「だって、直人が美味しそうに食べるから...!なんだか、私までゲシュタルト崩壊しそうだったんだもん!」
 


 「意味わかんないんだけど!」






 
 美亜は、二人の奇行に額を押さえた。





ピヨちゃんの心配と、明里の突拍子もない行動。





生徒会室は、今日も平和(?)なカオスに包まれていた。






美亜は、転がったトマトを拾い上げながら、心の中で呟いた。ピヨちゃん、早く元気になってね。






そして、明里、頼むから、もっとまともなボケを開発してくれ...。
 





 「ところで、直人。トマト嫌いなんじゃなかったっけ?」





 
 「な、なんだと!?美亜、君は俺の食の好みを把握していないのか!俺はトマトを愛している!それは、俺の美貌と同じくらい、いや、それ以上に尊いものなのだ!」




 
 「いや、昨日、弁当のトマトを全部私にくれたじゃん。」




 
 「あれは...あれは、君に俺の愛を分け与えたのだ!そういうことだ!」
 



 「……は?」






 
 美亜は、直人の必死の言い訳に、もはや何も言う気が失せた。ピヨちゃんの回復を願いながら、彼女は今日もツッコミの精度を磨き続けるのであった。