眩しい朝。今日から中学校が始まる。今日は入学式。でも、行きたくない。布団にくるまり直し、どうやったら行かなくて済むような嘘をつけるか、考える。ふと、小学生だった頃のことを思い出す。ホント、私がバカだった……。なんでこっちを選んで決まったのだろう。推薦されたのに…。私は、私立の中高一貫校付属小学校に通っていた。そこに行くため、附属中に推薦されるために、勉強を頑張った。だが、私よりも頭が良い人が多く、なかなか良い順位が取れなかった。推薦は諦め、今度は受験勉強に励んだ。が、やはり、学力は落ちていく一方だった。今まで応援してくれていた両親も、私から遠ざかり、弟だけに、希望を託していた。弟は両親の希望を両肩に背負うのだから可愛想。そう思い、泣きたい気持ちを誤魔化した。
受験勉強はやっても意味が無いということを、小学6年生の後期で分からされ、私は受験の山から下山した。
ついに、推薦を貰う日が来た。結果は「○×中学校 3組」3組は○×中学校の中で、一番学力の低い人が集まるクラスだが、そこに「推薦」されたということが、とても嬉しかった。これを両親に見せたら喜んでくれるかなと思い、急いで帰った。
『たっ、ただいま!見て!』
一枚の、私にとっては重要な紙をヒラつかせ、走っていった。両親は、不思議そうな顔で手に持っていた髪を見た。喜んでくれるかな?期待の目で両親を見つめた。が、次の言葉で、笑顔がスっと泣き顔に変わった。
『あ、そう。でも、あんたの学力じゃ、ここの勉強にはついていけないでしょ。すぐそこにある市立の中学に行きなさい。』
涙が目に溜まった。小6にもなって泣くのは恥ずかしいと思った。だから泣かなかった。必死に我慢した。そして、震える声で私は言った。
『で、でもさ、わ、私、○×中学校に、い、行きたいの。』
今までの期待はなんだったんだろうと思った。なぜ、両親がすぐに許してくれると思ったのだろう。もう気づいていただろうに。私はもう、両親に何もかも、見捨てられているということを。両親は義務として、私の生活だけを支えてくれているのだということを。途端、涙が床に、一粒、二粒……、こぼれていった。
あの時の私はつくづく惨めでバカだったなと思う。今だって、生活だけは支えてくれているが、勉強のことに関しては目もくれない。
あ〜。行きたくないな。絶対、知ってる人なんて一人もいないから。きっと、「私立から来たバカ」とか、あだ名つけられてイジメられるんだろうな…。そんなことを考えると、入学式にまで、行きたくなくなった。でも、休みたいって言っても、聞いてくれなさそう。ずっとヤダヤダ言い続ければわかってくれるかな。………いや、無理か。じゃあ、どうすれば良いのだろう。
やっぱり、今日はもがいてもがこう。本当に学校に行きたくない。血の繋がっている親なら、わかってくれるはず……なんだから。そう信じて、ママのもとへと行った。「そう。それであんたが高校行けなくなって、中卒だってバカにされても知らないからね。それでもいいならいいけど。」
自然と涙が目に溜まった。こう言われて悲しいんじゃない。逆に、怒りが込み上げてきた。なんて、無責任な人なのだろう。人の気持ちも考えないで…。私の気持ちが性格にママに伝わらないってわかってる。でも、ここまで分からない人とは。
この時の私は気づいていなかった。自分の心に溜まっている黒い水が、もうすぐ溢れ出しそうなことに。