小学生の時代は終わり。私、端川希未端川希未(はしかわのぞみ)は中学生になる。きっと、同じ小学校から来る人たちが多いはず。自分にそう言い聞かせ、中学に向けて、制服の準備などを始めた。
入学式の日。中学校の周りには、同じ制服を着た人が門の前で写真を撮っていた。
中学校は、今年でなんと、創立八十周年らしい。古いと聞いていたが、思っていたよりも、校舎は綺麗だった。
「あれ、のぞみちゃん!」
急に自分の名前を呼ばれ、振り返る。そこには小学校は違うが、幼稚園が同じだった、河合杏奈河合杏奈(かわいあんな)ちゃんがいた。
「あんなちゃん!久しぶり!」
「ひさしぶり〜…」
あんなちゃんの話し方は、相変わらずネットリした、眠そうな話し方だった。あんなちゃんの隣には、あんなちゃんと顔が似ている母親と、ゴツイ顔の父親がいた。
「あ、そういえば〜、さっき、あおはる見たよ〜。久しぶりにあおはる見たけど、結構陽キャになってたねぇ。男子に取り囲まれてた。」
アオハル?誰だっけ…?
そんなことはどうでもいいや。思い出せないものは大したことないって言うもんね。
最初、クラス発表を見て、先生らしき大人の人に従い、自分のクラス、5組へと向かった。あいにく、知ってる子は数人しかいなかったが、その子たちがいると思えるだけで、緊張がサッととけた。
5組の教室に入ると、女子はもう既に2つのグループに分かれていて、とても気まずかった。すぐさま支度をし、知っている子がいるグループのところへと行き、何とか孤独を免れた。こういうのは、初日が大事だもんね。
次に、入学式の手順を、優しそうな鎌谷先生に教えてもらった。最初は、普通に体育館に入り、椅子が用意されているので、そこに座る。そして、次に国歌を歌い、市歌を歌い、2年と3年で、校歌を歌うらしい。そして、呼名。呼名は、一人ずつ名前を呼ばれ、それに対して、返事をしなければならないので、ここで声が裏返ったり、声が上手く出なかったりしたら、初日で人生終わりだ…。
〜〜〜
いよいよ、本番。国歌と市歌は、小学生の頃に何回も歌ったから、特に心配はいらない。それよりも、呼名だ。呼名、呼名、呼名。上手くできるかなぁ。私よ、私。大丈夫だからね。「はい」って大きな声で言うだけなんだから。文を発表する時よりも簡単なこと。そう、自分に言い聞かせた。
「…5組。相澤はるき。…」
ついに5組だ!ふぅ、落ち着け。
「橋本ありな。…」
次だ……!!
「端川きみ。…」
え……、あ。最悪だ。名前、間違って読まれた。「のぞみ」じゃなくて「きみ」って。
みんなが私に注目している。なぜ誰も「はい」と言わないのか。
「はぃ…」
消え入りそうな声で言った。これが、私の中学校生活の、最悪の始まりだった。