電車の向こう側。【完結】

朝の光は、昨日と同じ角度で差し込んでいた。





 橘未来は、トーストをかじりながらテレビのニュースをぼんやり眺めていた。



 キャスターの声が淡々と響く。





 「今、世界で最も注目されている若きピアニスト——結城聖。昨日のパリ公演でもスタンディングオベーションが――」





 その名を聞いた瞬間、未来はリモコンを取って音量を下げた。





 「また、その人?」





 母が笑いながら食卓に紅茶を置く。





 「未来、その子の曲好きじゃなかった?」




 「うん……好きだけど。朝から聴くと、ちょっと気分が持っていかれるというか。」





 未来は苦笑いを浮かべた。
 確かに、結城聖の音楽は好きだ。






 でも——自分とはまるで違う世界の人間だと、どこか線を引いて聴いていた。