電車の向こう側。【完結】

夜のホテルの部屋。






 窓の外には、ネオンが溶けるような都会の明かり。
 聖はピアノの前に座り、鍵盤に手を置く。




 その指は震えていた。




 ——音が、出ない。





 彼は初めて、鍵盤の前で“無音”を恐れた。






 あの頃のように、ただ楽しく音を奏でられたら。
 母の笑顔が見られたら。
 あの頃の、自分に戻れたら。







 窓の外に、ふと光が差した。
 街のネオンでも、車のライトでもない。
 それは、金色に輝く電車だった。






 見たことのない路線、見たことのない光景。



 でも、不思議と懐かしい。



 導かれるように、聖はピアノの前から立ち上がった。