扉を開けると、ピアノの音が響いていた。
昨日と同じ旋律——けれど、どこか悲しかった。
「……お前か。」
聖は鍵盤から目を離さずに言った。
「うん。話したいことがあるの。」
「話なら昨日しただろ。やっぱり俺は——ここに残る。」
未来はまっすぐ彼を見つめた。
「聖くん、本当にそれでいいの?」
彼の指が止まった。
ピアノの音が、途切れる。
「……外の世界に戻ったら、また苦しいだけだ。
もう一度、あの世界で、同じ地獄を味わうかもしれない……」
未来は彼の前に立った。
「聖くん、違うよ。
あの世界には、ちゃんと“生きてる人たち”がいる。
親友の茉希も、あなたの家族も、
そして——あなたの“音”を待ってる人たちが。」
聖は顔を上げた。
その瞳には、光がほとんど残っていなかった。
「でも、俺は……怖いんだ。」
「聖くん、怖くていいんだよ。私も、怖いよ!
でもね、止まってたら、本当にこの先何も変わらないんだよ。」



