「お前だけ行けよ。」
未来は息をのんだ。
「現実に戻ったら、また全部失う。
音も、夢も、自分も。
それなら、ここで君とピアノを弾いてる方がいい。」
「でも、聖くんは、本当はそれでいいと思ってる?」
「……わからない。でも、このまま自分が壊れてしまうよりずっといい。」
未来は首を振った。
「違うよ。壊れたりなんかしない。
怖いのは、このままずっと“止まること”だよ。」
聖は未来を見つめた。
その瞳の奥に、揺れる何かが見えた。
沈黙。
遠くでチャイムが鳴る。
もう誰もいないはずの校舎で。
未来は立ち上がり、窓の外を見た。
空のひび割れが、昨日よりも広がっていた。
「この世界……壊れていく。」
「お前が“変わりたい”って思ったからだ。」
未来はゆっくりと振り返る。
「だったら——聖くん!一緒に、出よう!」
聖の瞳が揺れた。
「俺は…。」
「聖くん、一緒に行こうよ!」
未来の笑顔は、どこか泣きそうで、でも美しかった。
ただ、聖は考えこんでいる様子で、何も答えなかった。



