「ピアニストは俺の、夢だった。小さいころからずっと。
でも、コンクールで失敗してから、
周りが俺の“音”じゃなくて、“過去”ばかりを見るようになった。
あのときの天才、って。
それが、もう苦しいんだ。」
「……聖くん?」
「そして何もかも嫌になった。ただひたすら走って、だれもいない駅のホームで、強く願った。
『時が止まってくれ』って。」
聖はそう言って、鍵盤に手を置いた。
ひとつ、ゆっくりと音が響く。
それは、少し歪んだドの音だった。
「でもさ、この世界は俺の願いが集まって作ったものじゃない。
たぶん、俺みたいな、たくさんの人の“諦め”が集まってできた場所なんだ。」
未来は窓の外を見た。
夕陽が差し込み、空が金色に染まる。



