電車の向こう側。【完結】








「昨日ぶりだな。」






扉を開けた瞬間、聖の声がした。

彼は昨日と同じように、ピアノの前に座っていた。
ただ一つ違うのは、窓から射し込む光の色。
今日は淡い橙色だった。






「うん。今日も……同じ日だった。」

「だろうな。でもこの世界、やっぱり壊れかけてる。」







聖は鍵盤を軽く叩いた。

短い音が、空気を震わせる。







「ねえ、どうしてそんなに落ち着いてるの?」

未来は机の端に腰を下ろして、問いかけた。

「怖くないの? このまま、時間が止まったままでも。」







聖は少し笑って、首を振った。






「怖いさ。でも……現実よりはよっぽどマシだから。」

「……どうして?」


「現実には、音がなかった。俺が弾く音を、誰も聴いてなかった。」






未来は目を見開いた。
聖の声は淡々としているのに、どこか切実だった。