電車の向こう側。【完結】

一方その頃、遠く離れた国の夜。





 世界を魅了する音が響いていた。






 ステージの中央、白いライトに照らされたピアノ。





 そこに座る少年の指が、鍵盤の上を滑るように踊っている。









 結城聖——十七歳。
 その音は、どこまでも澄んでいて、どこまでも孤独だった。







 演奏が終わると、観客の拍手が嵐のように巻き起こる。






 けれど、聖はただ小さく笑って、
 ゆっくりと深く頭を下げただけだった。







 楽屋に戻ると、スタッフと記者が押し寄せてくる。

たくさんのカメラのフラッシュが点滅する。




 「結城さん!!次のコンサートは?!」




「聖くん!!新曲の構想は?!」





 「結城聖!!天才の次なる挑戦を——!!」







 聖は無言でペットボトルの水を開け、喉を潤す。






 そして、彼は笑顔をつくった。






 作られた“結城聖”という仮面を、もう一度かぶるように。