電車の向こう側。【完結】

「……よし、今日もいつも通り!」




 独り言のように呟いて、未来はイヤホンを耳に差し込む。


 ワイヤレスイヤホンから流れるのは、
 最近、世界中で話題になっている天才ピアニスト、
——結城聖(ユウキ ヒジリ)の新曲だった。





 どこか切なく、それでいて希望のような音が胸を震わせる。






 まるで、灰色の空に差す光のように。






 未来はいつも通り、通学路を歩く。



 道端には、いつもと同じ光景。




 仲睦まじい老夫婦が手を繋いで歩き、
 ジョギングをしているおばさんが笑顔で挨拶をしてくる。






 犬を連れたおじさんが「未来ちゃん、おはよう!」と声をかけてくれた。

 ——この、変わらない世界が好きだった。





 何も起こらない。誰もいなくならない。









“普通でいること”



"平凡"








それが、



未来にとってのいちばんの安心だった。